Vol.2 ― 経営管理システムの課題と取り組み② ― 経営報告の再設計

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経営と会計の冷たい関係

企業の所有者である株主の期待が投資に対するリターンである以上、経営管理において会計情報が重要な位置を占めることは避け得ません。一方、私たちが経営管理システムの構築のお手伝いをする中で感じるのは、企業の経営を担う経営者及び管理者と会計の間の距離感です。

毎月の役員会で部門別損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)が報告されますが、その内容について突っ込んだ議論はあまり行われません。例えば、在庫が増えていることが問題視されても、それが、今後の需要に備えて意図的に積んだ「良い」在庫なのか、莫大な廃棄損や評価損を生じる可能性をはらんだ「悪い」売れ残りなのかは、B/Sを見ても直ちには分からないし、月次業績報告を主管する経理部門では、そのような分析に必要な情報を持ち合わせていないというのが、大方の企業での実情ではないでしょうか。

もちろん物流の現場では在庫数はきちんとチェックされているでしょう。多くの日本企業では、そうした現場レベルの管理は行き届いています。しかし、商品コード別・倉庫別の在庫数といった「現場情報」を積み上げるだけでは、上述のような問題意識に即した「経営情報」とはなりません。在庫損失に関係する経営情報としては、例えば、廃番商品や旧モデルの在庫金額がどのくらいの割合で残存しているのか、あるいは、季節変動を考慮した今後の販売見通しに対してどの程度の在庫が積まれているのかといった情報が必要かもしれません。

現代の会計の仕組みは、財務報告に対する投資家のニーズを中心に組み立てられています。そして、その投資家は、つきつめて言えば、企業を投資ファンドのようなものと見なし、投下資金とリターンの関係を最重視します。一方、現実の企業活動は、市場・商品・顧客・販売ルート・リソース・組織などを構成要素とし、複雑な構造を持っています。会計データ中心の月次経営報告が形骸化することの根底には、この二つの側面の矛盾があります。

経営管理と会計情報

投資家志向の会計は経営管理に必要な情報を本当に提供しているのでしょうか。在庫を例にとってご説明しましたが、管理会計の主要対象である売上や費用についても、少し、吟味してみましょう。

売上に関しても、会計データだけでは実態が見えないケースがあります。よく知られた例ですが、医療用医薬品業界において、製薬会社の営業部門の活動指標は、「実消化(あるいは荷離れ・倉離れ)」と呼ぶ、卸から医療施設や薬局への納入高です。これは、製薬会社の会計上の売上である卸への納入高とは異なります。後者は、医療施設別や、それと紐付いた営業担当部署別に区分把握できないので、営業活動を把握するための指標には不向きなのです。
通信のようなストック型ビジネスでは、今月の新規契約開拓と今月の売上はほとんど相関しません。
これらは例に過ぎませんが、業種が異なるとはいえ、皆さまの会社にも財務会計上の売上高と営業成果の紐付けが難しい状況が存在しないでしょうか。

費用管理についても見直しの余地があります。多くの企業の月次報告では、費目別に、実績額を予算と対比し、差異の大きなものについて原因を報告するというスタイルをとっています。しかし費用にも色々あります。基礎的な営業活動費についてはそれでよいかもしれませんが、一方で、物流費を含む変動費的な費目については、出荷高など営業ボリュームの変動に伴って予算とのズレが生じるのは当然です。従ってそうしたボリューム要素と絡めた分析が必要でしょう。
また、広告宣伝費など政策経費は意図的に増減できるので、予実管理は、費目単位ではなく、テーマごとに行う方が有用でしょう。今後のテーマについて、営業状況に応じて実施可否を経営者レベルで判断できるような工夫が必要かもしれません。
設備費や備品費について言えば、十万円のパソコンを買った時には経費予実表に反映されて報告対象になり、百万円のサーバを購入すれば資産計上されるので経費にならず、月次予実管理から抜け落ちます。あまりに財務報告に引きずられていないでしょうか。

経営報告の再設計

投資ファンドとしての企業と経営体としての企業、この2つの企業観の矛盾が、経営報告の形骸化の根もとにあるということをご指摘しましたが、この二つの企業観に向き合うことが経営者の責務でもあります。株式会社の経営とは、投資家の期待を理解しつつ現実の企業組織を運営することに他ならないからです。

経営者の責務がこのようなものであるならば、経営者に対する報告は、投資家的視点に寄り添った会計報告を核に置く一方で、それと現実の企業活動を関係づける役割を担うべきではないでしょうか。これは、利益を部署別に管理するというように、会計データを細かく分割するというだけの話ではありません。
現実の企業活動を表現する受注や投資、活動量など会計外の「経営情報」と「会計情報」の関連性を解きほぐそうという提案です。

これまでも、受注高など経営上重要なデータ項目は、「KPI(主要業績指標)」として営業会議などで報告されているでしょう。しかしそうした報告は、会計ベースの月次業績報告とは別に行われていて、両者の関係について言えば、認識はされているものの、あまり明瞭には分析されていないのではないでしょうか。
そうした分析がこれまで出来ていなかったことの要因には、経理部門の責任/位置づけを含む様々な問題がありますが、これまで見過ごされがちだった点として、「時間差」の問題が大きいと考えています。

多くの場合、経営情報と会計情報の間には時間差があります。今月の受注高は来月以降の売上高に繋がり、今日行った設備投資は減価償却を通じて今後の利益に影響を与えます。こうした「時間差」を克服して経営情報と会計情報を関連付けるには、当月実績だけでなく見通しの概念を経営報告に織り込むことが重要です。
むしろ、経営数値と会計数値の関係を整理していくことにより今後の会計数値の見通しが立て易くなるとも言えます。

会計情報の元締めから経営情報の元締めへ

ここまでにご説明した考え方に沿って経営報告を再設計しようとするならば、経理・企画部門は、必然的に、会計情報の元締めから経営情報の元締めに変貌を遂げることになるのではないでしょうか。
「経営情報」は「現場情報」にもとづくとは言え、両者は質的に異なります。経営情報には販売予定のような未来データも含まれますし、実績にしても、例えば、先に述べたように在庫損失の予測に役立てようとすれば、現場が管理している商品マスタには必ずしも無いようなカットでのデータ集計も必要になります。
このように、経営情報の項目やカットを定義した上で、それに従って情報を収集・集約し、さらには会計情報との関連性を分析する、こうした役割を担える部署は、経理・企画部門を措いてあり得ません。

そうした役割を明示的に担うことで、経理・企画部門は、ビジネスの状況とその財務的帰結をより深く理解しようとする経営者の支えになることができます。
私たちフュージョンズは、経理・企画部門の将来像をこのように思い描いています。そして、ナマの「現場情報」を各部署に提供する「BI(ビジネス・インテリジェンス)」とは異なり、「現場情報」を「経営情報」に変換し「会計情報」と関連付けていくためのインフラである「MI(マネジメント・インテリジェンス)」をご提案しています。

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