Vol.4 ― 経営管理システムの課題と取り組み④ ― 環境適応型予算管理システムの構築(その2)

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前回は、現在の経営環境に対し従来型の予算管理が適合しなくなっているのではないかという問題を提起し、対応の方向性として、見通しの導入によって予算達成管理(予算対見通し)と実行予算管理(見通し対実績)の二面を分かつ「環境適応型予算管理」のコンセプトを提案しました。

今回は、これに引き続き、環境適応型予算管理の実施に向けた課題と、環境適応型予算管理が管理会計システムの他の要素に与える影響について考えます。

見通し精度の問題

見通し重視の予算管理を機能させるには、見通し、中でも売上見通しの精度が重要であることはお気づきの通りです。一般的なテキストなどでは、売上見通しの精度向上と言えば、統計的予測手法の採用といったテクニカルな話に流れる訳ですが、実務的には、それ以前に為すべきことがあります。見通しのための売上区分と責任分担の明確化です。

売上高というものは単純なようで一筋縄では理解できません。商品特性により販売パターンが全く異なる場合もありますし、同じ商品でもルートによって流れ方が異なる場合もあります。大口顧客との個別商談に左右される受注と定番的な需要による受注を一緒にしていては何がどう売れているのかわかりづらいでしょう。高度な統計学を用いた予測手法を適用しても、こうした区分による需要特性の差異を無視していては、見通し精度が向上するわけがありません。

さらには、見通し担当部署の問題もあります。そんなの営業部署に決まっているだろうと思われるかもしれませんが、そうでもありません。地域軸・顧客軸での営業活動は営業部署が担っていても、商品軸での企画・マーケティングは商品部が担っていることもあります。システム開発業のように、営業部署ではなくデリバリ担当部署に売上が上がる業種もあります。営業部署とデリバリ担当部署はどう責任分担して売上見通しを作成すべきでしょうか。

この2つの問題、すなわち、売上の区分と、それぞれの区分に対する予算管理・見通し責任の所在を整理するのが、見通し精度向上に関する根本的な課題です。そうした整理の上ではじめて、売上区分ごとに、様々な手法や受注など先行指標を用いた精度向上の努力が効果的になされるようになるからです。

また、適応型予算管理を効果的に運用するには、費用の区分についても工夫が必要となってくるでしょう。物流費のように営業規模に依存する経費と、広告宣伝費のような裁量的経費の見通し手法は異なるはずです。後者のような費目については、今後の支出見通しを、すでに発注済みで動かせない額と未発注の額に分け、後者についてコントロールできる機会を経営者に提供することも考えられるでしょう。

これらのテーマは、前々回の「経営報告の再設計」で取り上げた、経営報告は会計情報だけでなく経営情報も取り込むべきである、というテーマと対をなしています。経営管理をうまく回すには、会計情報を(その先行指標を含む)経営情報と結び付けなければならないということを、前々回は、経営報告という「データ」の面から取り上げ、今回は、予算管理という「プロセス」の面からご説明しているに過ぎないからです。

管理会計システムに与えるインパクト

環境適応型予算管理は、管理会計システムの他の側面にもインパクトを与えます。あるいはもっと積極的に、管理会計システムを簡素化する契機を提供します。

ひとつは、前回も触れた月別予算の問題です。環境適応型予算管理を適用するならば、予算の月割は原則として不要になります。各チームの自己管理の目安として月割しても構わないのですが、会社としての月別実績の管理は、あくまで、前月時点見通しに対する差異報告が中心になるからです。私たちフュージョンズの経験から、年度予算を立てた後の月別予算展開に手間取る割に、出来上った月別予算の精度が低いという悩みを抱えている企業は相当あると考えています。

もうひとつは「月次決算」の意義の変化です。従来、管理会計上の月次決算と言えば、月別にはバラつきのある費用やロイヤルティ収益などの平準化あるいは概算による引当処理等様々な調整を加え、期末決算に極力繋がるような利益を計算する、というのが、あるべき姿と考えられてきました。しかしながら、こうした調整を細かくほどこすことにより、却って、経営者とライン部署から「月次の利益は経理が作った数字」といった受け止めをされている面もあります。

環境適応型予算管理によって期末の利益見通しが経営者に提供されるのであれば、月次での利益の重要性は薄れます。売上や支払経費などを月次締めできちんと確定していくことの重要性が変わるものではありませんが、上述のような会計的「お化粧」は必ずしも必要では無くなるでしょう。経理・企画部署としてはむしろ、期末予想を作る中で、為替影響・原価差額・廃棄損と評価損といった、責任部署が曖昧になりがちな項目の見通しに力を入れることができます。

こうした変化を性急に求めるのは上策ではないかもしれません。ラインマネージャの見通しスキルが向上し、環境適応型予算管理が効果的に機能するようになるまでは、一定の時間がかかると思われるからです。とはいえ、余計な負荷を組織にかけないリーンな経営管理システムを構築するには、上述のような可能性を視野に置き、段階的に経営管理制度の新陳代謝を図っていくべきと思われます。

経営管理システムの適応不全

前回言及しましたように、経営を取り巻く環境は会計ビッグバンで大きく変わりました。それから十数年を経ていますが、多くの企業は、いまだにその変化への対応に苦慮しています。第一回で取り上げた、経営管理が連結中心に移行できていないというのもそのひとつですが、期末予想の報告を四半期ごとに要求される環境の中で、予算管理制度の設計と運用が、依然として年度を単位とした業績評価に重きを置いたものであり続けているとすれば、それもやはり経営管理システムの適応不全ではないでしょうか。

数年前、「脱予算経営」が話題になりました。脱予算経営の根本にあるのは、予算編成が目標水準をめぐる交渉ゲームと化してしまい、業績向上のための動機づけのツールとして機能していないという認識でした。だから、動機づけの仕組みは別に作った上で予算は廃止せよという主張になるわけです。

私たちは、これは少々行き過ぎのように感じています。予算には、動機づけの他に、企業活動計画の統合、及び各部門が立てる個別の計画の調整、という重要な役割があるからです。むしろ、予算制度にだけ出来て他の制度では代替できないという点で、計画・調整こそ予算の本質的機能であると、私たちは考えます。そうした理解を踏まえて、業績評価による「動機づけ」は他の制度に委ね、予算は計画と調整に集中させようというのが「環境適応型予算管理」の基本にある発想です。脱予算経営と比較すると、予算に関する問題認識を共有しながら、予算の機能について異なる認識を基礎に置いているわけです。

前回の繰返しになりますが、環境適応型予算管理は業績評価を軽視するものではありません。そうではなく、業績評価を(バランストスコアカードなど)別のシステムに委ねることによって、予算管理は本来の「計画・調整」機能をよりうまく果たすことができるようになり、全体としてバランスのとれた経営管理システムを構築できるという考えに立っています。

経営管理システムは一朝一夕に確立されるものではないし、企業それぞれのこれまでのシステムと風土に応じて、その道筋もあるべき姿も異なるのが当然です。とはいえ、経営管理システムを改善・進化させていく努力の先に想定し得るひとつのモデルとして、「環境適応型予算管理」をお役に立てて頂けるのではないかと考えています。

なお、フュージョンズでは、経営管理スイート「fusion_place」上で、環境適応型予算管理を実装したアプリケーションテンプレート「fusion_easy:予算管理」をご提供しています。ご興味のある方はお声掛け下さい。

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